いぬのいる島

日々、散歩しては迷っている

4月5日(金) 傑作映画『アイアンクロー』を観た 接客業って難しい

 

朝までソファーでうたた寝していたので体が重い。ナメクジのようになんとか風呂場まで這いずってシャワーを浴び、ベッドに入り少し仮眠をとる。今日は本業の仕事はお休みなのだが、昼から友人のYさんのチーズケーキ店のお手伝いのバイトがあった。きっちり二日酔いしていたが、回復しておかないと支障が出る。それでも今回は軽めの二日酔いだ。

 

居間でコーヒーを飲み、朝食にコーンフレークを食べる。音楽を聞きながら日記を少し書いて、支度をした。少し早めに家を出て、今日働くチーズケーキ店の近くにあるラーメン屋さん「ラーメン 霽レ空」へ。以前このお店で食べた時のあっさりしたラーメンスープを思い出し、食べたくなった。二日酔いのときにはおいしい出汁が飲みたくなる。あっさり系のラーメンは「味が濃すぎるものは無理だけど、カロリーが摂れるものが食べたい」という二日酔いのニーズにとても合っている。

 

まだオープン時間から間がなかったが、すでに2人のお客さんがカウンターでラーメンを待って座っていた。わたしもその横に加わって中華そばを注文した。前回の来店時にも目に入っていたのだが、店内にはお客さんへのさまざまな注意書きが貼ってある。

 

ティッシュはカウンター下台です(必要最小限でお願いします)」「お荷物はカウンター下台に置いてください(カウンターの上に物を置かないでください)」などなど。きっと苦心して、注意書きを貼り出すことを決めたのだろう。お店をやるってむずかしい。

 

 

中華そばはとても美味しくて、二日酔いでもするすると食べられてしまう。いつものように「満腹感がわからなくなって気持ち悪くなる」なんてこともなく、ちょうどいい量で完食。スッキリしていながら旨味もあって大満足だった。

 

ケーキ店の出勤時間まではまだしばらく時間があったので、近くの公園で一休みする。おだやかな春の昼間は大変にのどかで、気持ちいい。幸せ。

 

なんということのない春の午後

ゆっくりとチーズケーキ店に行き、仕事をこなす。わたしも働くからにはお店の側であり、お客さんに「来てよかった」と思ってもらえるようにしなくてはならない。サービス業は相手によって対応を変えなくてはいけないのでとても難しい仕事だ。なぜ世のサービス業の人々はこんなに大変で高度なことをやっているというのに、待遇が低いのだろうか。めちゃくちゃ高度なことをやっていて、しかも人の役に立っているのに。

そういえば、最近SpotWORKのバッテリー回収の仕事で、深夜のコンビニに行くことが増えた。作業の前に店員さんに挨拶をするのだが、半分以上のお店で外国人の店員さんに挨拶をしている。

 

考えてみてほしいが、仮に自分が海外に行って、日本のコンビニのようなお店で働けるだろうか。わたしにはできる気がしない。少なくともかなり難しい。接客はもちろん、税金支払い、配送手続き、さらにはモバイルバッテリーサービス業務をするわたしたち「ワーカー」への対応、etc……。気が遠くなるほど多くの業務がある。すごい高度な仕事だと思う。なのに給料はほとんど最低賃金というのは矛盾している。そして、わたしもお客さんとして、それらのサービスを享受している。この労働モデルは明らかに歪だ。近いうちに崩壊すると思う。いやもう崩壊しているのだ。

 

それでもわたしは、最近接客業が楽しい。「やりがい」みたいなことではなくて、純粋に他人とやりとりすることが楽しい。わたしはいままで、自分のことをいわゆる「コミュ障」だと捉えていたので、サービス業に興味を抱くなんて考えてもみなかった。

 

きっとこのチーズケーキ店のYさんやほかの友人たちが接客業をしていて、みんな素敵な人たちなので、わたしもやってみたくなってきたのだろう。また、若い頃よりもいろんなお店に行く機会が増えたというのもある。あまりに素晴らしい接客を受けると、わたしもそんなふうになれないかと考えるようになった。いいと思える歌を聞いたあとについ口ずさんでしまうように、わたしは接客の場で理想のかたちを見る機会が増えたのだろう。どこか別のお店でも働こうかな。おじさんでも雇ってくれるだろうか。

 

と、チーズケーキ店で働いては、Yさんとおしゃべりしていたのだが、お客さんが全然こない。暇だった。外は陽気がいいので、みんな鴨川の河川敷で花見でもしているのだろうか。あまりにお客さんがこないのでわたしは早上がりになった。

 

時間が急に空いたので途方にくれる。しかしここは二条エリアに近く、二条には「TOHOシネマズ二条」という大きなシネコンがある。映画の時間を調べるべきだ。すると一番近い上映時間にやっている作品は、今日が公開初日の『アイアンクロー』だった。

 


www.youtube.com

 

日本でもジャイアント馬場アントニオ猪木らと激闘を繰り広げ、鉄の爪=アイアンクローを得意技としたアメリカの伝説的なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックを父に持ち、プロレスの道を歩むことになった兄弟の実話をベースに描いたドラマ。

1980年代初頭、元AWA世界ヘビー級王者のフリッツ・フォン・エリックに育てられたケビン、デビッド、ケリー、マイクの兄弟は、父の教えに従いプロレスラーとしてデビューし、プロレス界の頂点を目指していた。しかし、世界ヘビー級王座戦への指名を受けた三男のデビッドが、日本でのプロレスツアー中に急死したことを皮切りに、フォン・エリック家は次々と悲劇に見舞われ、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになっていく。

参照元:映画.com)

 

わたしはまったくプロレス文化を通ってこなかった。子供のころ、周りにプロレスが好きな人もいなかったし、なんならわたしの親はプロレスのことを「教育によくない」と言ってちょっと嫌っていた。わたしの親自身は、子供のころは力道山とか好きだったらしいが、子供には暴力描写に触れさせたくなかったのだろう。しかし大人になってみると意外にプロレス好きに出会っていき、特に大学に行ってからは「世の中にこんなにプロレス好きが多いのか」と驚かされたものだ。もちろんわたしの交友関係が偏っている可能性もあるが。

 

時間がちょうどよかったという理由だけで、プロレス知識のないわたしがプロレス映画を楽しめるだろうかと不安はあった。「まあ『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督)とかは楽しめたし、なんとかなるか」と思ってチケットを買った。

 

 

これが大傑作でした!超泣いた。嗚咽をもらすほど号泣した。ただ単に泣ける映画というのはたしかにあるし、「泣ける」と言いたいだけで失敗している映画なんてそれこそ山ほどある。泣ける=いい映画ではないのは前提として、この『アイアンクロー』は作品の質が高すぎて泣いてしまった。

 

なんと言っても、主演のザック・エフロンが素晴らしい。鍛え上げた肉体の説得力も、演技表現も、ギリギリまで研ぎ澄まされているのがよくわかった。ラストシーンでは彼の演じるケビン・フォン・エリック(次男)が、いままで自身で抑圧してきた感情を抑えきれなくなるシーンがあるのだが、ここまで映画を観ていた観客が感動しないのは難しいのではないか。もちろん感動しない人も居ていいけども。というか、なんでザック・エフロンアカデミー賞にノミネートすらされていないんだろう。ほんとアカデミー賞ってそういうところあるよね。(4/12追記:『アイアンクロー』が対象となるのは来年のアカデミー賞だと同僚に教えてもらった。アカデミー賞、ひどいこと言ってごめんなさい。)

 

懸念していたプロレス知識だが、もちろん知っていればより面白いポイントは多いだろうが、わたしとしては全然必要なかった。なぜなら、この作品は「プロレス」を描いた作品ではなく、「人間」や「家族」を描いた作品だからだ。きっと「プロレス」だけを描く作品にもできたと思う。しかし、そうしなかったのだ。しかも、かなり現代的な事柄を描いている。現代的かつ、普遍的なメッセージを持つ作品だと言っていいと思う。みんなに見てほしい。わたしに、もしも子供がいたら絶対に見せたい作品のひとつだ。いまも思い出して泣きそうになっている。みんな観てください。

 

思わずパンフレットも買っちゃった

 

映画が良すぎて家で放心状態になっていると、時間がきた。今日は先ほど一緒に働いていたYさんと四条大宮にある「ニエフ」というお店に行くことにしていて、予約をしていたのだった。家から近いので歩いて向かった。

 

予約時間ちょうどにお店に到着すると、すぐにYさんもやってきた。カウンターの奥に座らせてもらって瓶ビールとグラスをもらってふたりで飲む。そして「鰆の霜焼き造り」「苺とミニトマトの白和」「きんぴらごぼう」「ホタルイカスナップエンドウのぬた」「ちくわの磯辺揚げ」「せせりと蓮根塩炒め」と次々と料理を平らげる。食べ過ぎだな。でも美味しいので全然食べられてしまうのだ。

 

ニエフの鰆

なんならこのあとわたしのパートナーも仕事終わりで合流して、さらに「剣先イカ造り」「きゅうりのぬか漬け」「アスパラの天ぷら」「じゃこチャーハン」も追加して食べた。そしてたらふく飲んだ。二日酔いだったのにね。

 

やはりYさんとの話題は接客業、ひいてはお店をやることについての話になった。お店が好むと好まざるとに関わらず、お客さんはいろいろな考え方を持っている。その人たちの中には店側がしてほしくない利用の仕方をする人もいるだろう。もちろんお客さんひとりひとりに「それはやめて、こうしてほしい」と言うことができるのならば、お昼に行った「ラーメン 霽レ空」さんのように、注意書きなんて貼る必要はない。

 

そもそもお店の考えとまったく同じお客さんがいたとして、そのお客さんだけでお店を続けるのは、ほとんどの場合無理だろう。しかも、現代では客はお代を払えばSNSで貶し放題である。わたしには好きなお店が多いので、その好きなお店がネットの書き込みでひどいことを書かれるのは観ているだけでつらい。そんな状況のなかで接客をするのも大変だ。頑張ってやっていってほしいし、わたしも頑張りたい。

 

そのほかの話題は映画『アイアンクロー』がどんだけよかったかという話。とても楽しくてずっと飲んで食べていた。以前はYさんとサシ飲みをよくしていたものだが、久しぶりにできてとても楽しかった。とても尊敬しているし、大好きな友人だ。また飲みにいきたい。

 

結婚祝いに高級お箸いただきましたーありがとうございます!

大宮でYさんと別れて、わたしはパートナーと一緒に帰った。いい夜だった。風呂に入って、1時過ぎに就寝。